[戻る]

半導体レーザーによる犬猫の腸管吻合法の検討と臨床応用   
   山田英一1) 今山行夫2) 片野修一3) 住吉 浩4) 椿  洋5) 長島文幸6) 柴田武志7)  1)山田動物クリニック・新潟県 2)東明動物病院・新潟県 3)カタノ動物病院・新潟県 4)スミヨシ動物病院・新潟県 5)椿獣医科・新潟県 6)長島愛犬愛鳥病院・新潟県 7)柴田獣医科病院・岐阜県


1.はじめに

 レーザーは,生体組織を加温・凝固・蒸散作用を有し,その特性を応用して多方面の医療分野で利用されている。最近では,半導体レーザーの普及に伴い獣医外科領域で外科用レーザーを使用する施設が増加しつつある。今回,半導体レーザーによる犬猫の腸管溶接を臨床応用する目的で独自な方法を考案し,臨床応用可能であると結論づけることができたのでその概要を報告する。

2.材料および方法

 レーザー発生装置は810nm 半導体レーザーPDL‐Pulse Diode Laser(IHD社製),コンタクトプローブにはLaser Bipolar Dissector (以下LBD)およびSuper Scalpel Dissector(以下SSD)(エス・エル・ティー・ジャパン社製)の2種を使用した。実験に用いた腸管は犬および猫の死後剖検後採取したものを使用した。 

(1)レーザー腸管溶接法は,今回考案し自作したレーザー溶接用腸鉗子(laser welding intestinal clamp以下LW鉗子)にて腸管を挟み,同鉗子有窓部からLBD またはSSDを用いレーザー照射し,腸管を切開しながら溶接する方法である。レーザー溶接力を検討する実験では,腸管の一端をLW鉗子で挟み,レーザー出力(条件1),LBD(条件2),SSD(条件3)の各条件でレーザー溶接し封印した。つぎに反対側未封印の腸管開口部より8Frの圧測定用カテーテルと,生食水注入用4Frカテーテルを挿入し,溶接部が破綻するまで生食水を注入し(2.5ml/min),破綻時の腸管内圧(bursting pressure 以下BP)を計測し,腸管縫合の至適レーザー照射条件を検討した。

(2)死後の腸管を溶接したもの3例および結腸亜全摘術後36日で交通事故死した1例のレーザー溶接部分を組織学的に検討した。

(3)臨床例に応用した症例は,小型犬または猫(体重1.2〜3.2kg)の腸閉塞で腸吻合術が必要なもの6例(その内2例が側々吻合で狭窄が合併したため,本法による再手術をおこなった)である。猫巨大結腸症で結腸亜全摘術を要するもの12例(そのうち6例については対照として surgical stapling 法で結腸亜全摘術をおこなった)である。

〈術 式〉腸管切除後,自作のLW鉗子で開口した各々の腸管内に作成目的の小孔径に応じた長さまで挿入する。2つの腸管の対腸間膜面を密着して,LW鉗子を装着する。そのLW鉗子周囲の腸管漿膜面に lembert連続縫合で支持縫合をおこなう。その後,LW鉗子有窓部より実効出力8〜10WでLBDまたはSSDで腸管を切開溶接する。LW鉗子を溶接部が接がれないよう注意深く取り外す。十分な溶接がおこなわれたかを観察する。単一となった管腔開口部は開放管腔法に準じ吸収性縫合糸でGambee一層腸管縫合にて閉鎖する。最後に,腸管吻合部を観察または腸管に生食水を注入し漏れがないかを確認し,腹腔洗浄を行って閉腹する。

3.成  績 実験結果:

(1)実効出力8,10,12,15Wのレーザー出力では,8,10Wと出力が増加するにつれてLBDおよびSSD両方とも腸管溶接部のBPも増大したが,12,15Wと増加するにしたがってBPの漸減がみられた。LBDの溶接力はSSDより強力であったが,SSDは短時間で溶接が終了し,手技が容易であった。

(2) 死後直後に採取した腸管をレーザー溶接した3例全例における溶接部分の組織所見では,溶接部分の粘膜上皮は高度に萎縮しており,細胞形態が明らかでないものが大部分であった。平滑筋層は粘膜と比較すると比較的保たれて,変性の範囲も粘膜の変性範囲よりは狭く,また,結合組織の収縮,変性は両者の中間的程度に観察された。

(3)臨床例に応用したレーザー腸管吻合例の全例で順調な経過をみた。内視鏡検査(結腸亜全摘例3例)にてレーザー熱による粘膜面の炭化は術後3日にて消失し,また顕著な炎症所見はなく,surgical stapling 法の術後3日の内視鏡所見と比較して明らかに良好であった。また,結腸亜全摘した術後36日の症例におけるレーザー接合部では,中程度の炎症反応が見られたが,回結腸の組織連続性は良好であった。小腸のレーザー腸吻合をおこなった犬1例の術後3ヶ月後の腸管バリウムX線造影所見から,吻合部位のバリウム貯留所見を見たが狭窄所見はなく,臨床所見では正常であった。

4.考  察

人医においてレーザーによる血管縫合は臨床応用されているが,腸管吻合術に関しては,動物実験の報告はあるが臨床応用に至ってはない。これは,staple が一般化されている点と,レーザー装置やプローブ,さらにレーザー照射手技が決して容易でない点などが普及していない理由と考えられる。 しかし,縫合糸を用いた従来の吻合やstapleによる器械吻合では,機械的損傷や異物反応が必発するのに対して,レーザーによる腸管縫合ではそれらの欠点が殆どなく,縫合部の密着性に優れ,さらに,殺菌効果および創傷治癒促進効果もみられるという特徴を有していることに加えて,獣医外科臨床では高価な staple を頻繁に使用できない点,また,最近になって半導体レーザー装置が入手し易くなった点,プローブが改良され初心者でも操作が容易になった点など,腸管吻合術にレーザーを適用する利点が多くあげられる。 臨床例に本法を応用した例は,動物の腸管径が細く,あるいは吻合する腸管径が著しく異なり,従来の端々吻合術またはsurgical satapler のGIAを実施するのが困難な臨床例に対して行った。その結果,吻合部の通過障害などはなく,超小型種に対する腸管吻合法に有用な術式と考えられる。 主要な術式は,吻合する腸管の対腸間膜面を併置し,LW鉗子で挟み,鉗子面に縦方向にある有窓部からレーザー照射し腸管を切断すると同時に腸管溶接が行われ,そこを新腸管開口部にすることである。最初に切断した腸管開口部の閉鎖は手縫い縫合で閉鎖するが,レーザー溶接法でも可能である。しかし,その開口部が腸管径の2倍以上に拡大されるためレーザー照射時間がかかり過ぎ,また,支持縫合も実施するとなれば,この部分は手縫い縫合し易い箇所のため,この開口部の閉鎖部分に関しては,レーザーを使用する利点がないものと考え,手縫い縫合を選択した。 吻合部を観察したバリウム造影所見から,術後吻合部にバリウムの貯留が見られたが,狭窄の所見はなかった。本術式は,解剖学的に抗蠕動側々吻合法であり,抗蠕動を示唆する所見と考える。しかし,狭義でいう端々吻合法や側々吻合法より吻合部の管腔内径が拡大され,むしろ術後の吻合部狭窄等による合併症は少ないものと考えられる。 本法に必要な特殊器具としてレーザー装置とLB鉗子が必要である。本鉗子によって,溶接部分が安定して保持されることにより,溶接に不必要な組織を誤照射のないレーザー操作が可能となる。また,本鉗子は溶接部の組織に対し,鉗子の機械的圧迫により血液流入が阻止されレーザー光の減衰を防止する効果,および鉗子の放熱効果により溶接部以外の組織に与える熱損傷を最小限に止める効果を有する。さらに,本鉗子を腸管に装着後,本鉗子側面周囲の腸管漿膜を縫合針で鉗子上を滑らすように刺入することによりlembert 縫合が容易に行なえ,支持縫合が容易となる。 以上より,本術式と鉗子は超小型種に対する腸管吻合術に有用であり,レーザー手術法発展に大きく寄与するものと考えられた。